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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)193号 判決

審決取消事由の存否について検討する。

1 原告の主張1について

引用例1及び2(成立について争いのない甲第七、八号証)に記載された発明は、抽出装置として回転円板接触器(RDC)を用い、炭化水素混合物から芳香族成分を溶媒抽出するのにスルフオラン型溶媒を使用し、抽出装置内では、炭化水素混合物を分散相とし、溶媒を連続相として抽出する構成を有していることについては、当事者間に争いがなく、引用例1及び2の発明と本願発明とを対比してみると、引用例1及び2に記載されている発明では抽出器内の炭化水素混合物を分散相とし、スルフオラン型溶媒を連続相としているのに対し、当事者間に争いのない本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二ないし第六号証により明らかなように、本願発明では、原告主張のごとく、この分散相、連続相を逆転させ、スルフオラン型溶媒(重液)を分散相とし、炭化水素混合物(軽液)を連続相として操作する点で両者は相違する。

ところで成立に争いのない甲第九号証によれば、引用例3の発明は、二種又はそれ以上の混合しないか又は僅かに混合しうる液体、特に鉱油あるいは脂油等を、一種又は一種以上の選定された溶剤で抽出するために前記液体を烈しく接触させるための装置に関するものであつて、油と溶剤との分散のさせ方として、軽い油相内(連続相)に重い溶剤相を分散させることと、重い溶剤相内(連続相)に軽い油相を分散させることの二通りがあることを示し、前者について「低い比重の液体、この場合の油は塔の底部に近い管を経て導入せられ……重い液体(溶剤)は塔の上部にある管5を経て導入せられる。もし軽い油相内に重い溶剤相を分散せしめるのを望むなら、重い相と軽い相との間の衝突は、油の入口6と抽出物の出口7との中間点、例えば線a―a´の位置で塔の底部内で起り、これにより軽い油相は塔内で連続せる液となり、溶剤は回転盤の遠心力によつて分散される。」(第二頁右欄第一八行ないし第二六行)とあり、前掲甲第二ないし第六号証によれば、この軽い液体は本願発明の炭化水素混合物に、重い液体はスルフオラン型溶剤に対応するものであるから、引用例3は本願発明における溶剤を分散相とし、炭化水素混合物を連続相とする操作を示唆するものであり、また、引用例3の右操作は炭化水素と溶媒との境界を抽出塔の下部に置くことになると認められる本願発明の操作とも一致している。

原告は、引用例3は軽液(炭化水素)を連続相、重液(溶剤)を分散相とする場合には抽出効果を減殺する軸的混合ないしバツクミキシング効果が発生することを示している旨主張するが、引用例3の原告指摘の個所は、「その結果溶剤流Sは塔壁の方に流動し、あまり撹乱されていない部分(塔壁に近い所)内で更に十分に分散されない傾向を示し、次に固定輪により其の方向を変ぜしめられ、最後に再び回転盤の圧搾作用により、塔の中央方向に引かれ、それは又次の回転盤により塔壁の方に遂出される。」(第二頁右欄第二八行ないし第三四行)というものであり、これは、塔の上部に導入された溶剤が塔の下方に向うときの流れの模様を説明したものであり、原告主張のような軸的混合あるいはバツクミキシングの発生を指摘するものとは解されず、引用例3において、他に軽液を連続相にし、重液を分散相とする方法についての不都合、不利益を示す部分は見当らない。

原告は、RDCの操業に当つては、溶媒、溶質、抽出液及びラフイネートの化学構造の相違によつて、これらの物理的特性は著しく変わるものであり、一つの溶媒抽出系において使用する方法が直ちに他の溶媒抽出系における特性を予想しえないものであるから、引用例3をもつて本願発明の推考容易性の根拠とすることはできないとの趣旨を主張する。しかしながら、引用例3は、液体混合物と溶剤のごときものを烈しく接触させて液体を抽出する回転円板を用いた液―液抽出装置に関するものであるから、そこに記載された前記のような手法を引用例1、2の抽出方法に結びつけて、本願発明の推考容易性に言及することに何ら不合理な点もない。原告の主張は理由がない。

2 原告の主張2について

前掲甲第二ないし第六号証及び弁論の全趣旨によれば、プラントの抽出器の溢流点は溶媒を連続相とした従来方法においては23mm/secであるのに対し溶媒を分散相とした本願発明においては27mm/secであることが認められ、右の差は抽出器の能力を計算上一七%高めたものとみられる(ただし、厳密には、抽出器の液体の安全通過量の差であり、ただちに混合炭化水素中から芳香族炭化水素を抽出する能力の差とはいえない。)。

ところで通常の実施は、その能力いつぱいにおいて行われるものではなく、安全性を見込んで、例えばその能力の五〇%ないし七〇%程度の範囲で行われるものである(甲第二号証第二一頁第一行、同第一〇ないし第一一行、第二四頁第一〇ないし第一二行、第二七頁第一一ないし第一三行、第三〇頁第八ないし第一〇行等参照。)から、右一七%の数字は、抽出器の能力向上の観点からみて顕著な改善とすることはできない。

また前認定のとおり、引用例3には、溶媒を分散相にする場合と、これを連続相にする場合の二通りの混合状況が説明されており、抽出器に存在する溶媒の量を減少させなければ連続相であつたものを分散相に変えることはできないのであるから、抽出器中で溶媒を分散相にする場合は連続相にする場合に比較して、抽出器中に存在する溶媒の量が少なくなるのは当然であつて、この点に関する溶媒量を減少させることができる効果は引用例3から十分予測されるものであるからこれをもつて本願発明の奏する顕著な効果とすることはできない。しかも芳香族炭化水素の回収率が従来方法と同程度とすれば、本願発明の効果が従来法に比し顕著なものとは到底することができず、この点に関する原告の主張も採用することができない。

以上のとおりであり、本件審決にはこれを違法とすべき点はないから、これを違法としてその取消を求める原告の本訴請求は、失当として棄却すべきものである。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

混合炭化水素供給原料を回転円板接触器を設けた抽出帯域に送り、該抽出帯域にスルフオラン型試薬及びスルフオレン型試薬から選ばれた少なくとも一種の溶媒から成る貧溶媒組成物を送り、該帯域中で該供給原料の連続液相を該溶媒組成物の分散液相と接触させ、それによつて該供給原料から芳香族炭化水素を該溶媒中に抽出し、該抽出帯から非芳香族炭化水素から成るラフイネート流れ、及び生成せる抽出された芳香族炭化水素を含有している富溶媒流れを引出し、該富溶媒流れを貧溶媒再循環流れ及び芳香族炭化水素生成物流れを与えるために分離し、該貧溶媒再循環流れの少なくとも一部を前記抽出帯域に前記貧溶媒流れの一部として再循環し、そして生成せる芳香族炭化水素生成物流れを回収することから成る、混合炭化水素供給原料からの芳香族炭化水素の溶媒抽出法。

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